NSM WEB MAGAZINE

プロへの第一歩を!

学校・学生紹介

2025.03.31

「音楽を仕事にする」引田寿徳先生編

「好きな音楽」を仕事に。ミュージシャンとして、音楽クリエイターとして、音響や照明として、マネージャーやライブスタッフとして。音楽業界が多様化する中、音楽に関わる仕事も様々。そうやって音楽と生きていく。好きな事で生きていく。その為の努力や継続や信念を後押ししてくれる専門学校が名古屋にある。名古屋スクールオブミュージック&ダンス専門学校である。(※以下NSM)今回から始まるNSM連載シリーズではどんな先生がどんな思いで生徒と向き合っているかをインタビューでお届けする。第1回目に登場する先生はNSM副校長である引田寿徳先生。あのヴァン・ヘイレンのヴォーカル「デヴィッド・リー・ロス」のバンドメンバーとしてワールドツアーに参加したギタリストでもある。専門学校だから学べること、NSMだから学べること。シリーズ第1弾、引田先生編をどうぞ。

Interview by 柴山順次
Photo by Muu®(asherads)

2YOU:NSMの講師の皆様にお話を伺っていくインタビュー連載が始まるということで、第1回目は引田先生に色々お話訊かせて頂ければなと思っています。引田先生、宜しくお願いします。

引田先生:よろしくお願いします。

2YOU:ぐっと遡りまして、引田先生が音楽に興味を持ったきっかけから訊かせて下さい。

引田先生:僕が音楽に興味を持ったのは中学校の2年生くらいなんですけど、ちょうどその頃って洋楽ブームだったんですよ。MTVが流行っていて、そこには海外アーティストばっかり映っていたので、おのずと興味を持つようになって。最初はドラムがかっこいいなと思って親に「ドラムを買ってくれ」とお願いしたんですけど、「家にドラムは置けないからギターはどう?」って言われて(笑)。それでギターを買ってもらったのがミュージシャンを目指したきっかけですね。ただその頃、世間ではファミコンもブームだったんですよ。どの家庭も一家にひとつファミコンがある時代で。勿論僕もファミコンは欲しかったんだけど「ファミコンかギターかどっちがいい?」と言われてギターを選んだんです。あの日、ファミコンを選んでいたら全然違った人生だったと思います(笑)。

2YOU:それくらいの衝撃を洋楽から受けたのですね。

引田先生:そうですね。僕が後にアメリカで一緒にやらせてもらうことになるヴァン・ヘイレン、モトリー・クルーやボン・ジョヴィのようなLAメタルのバンドに物凄く影響を受けましたね。中学2年生の頃、文化祭に出る為にバンドを組んだんですけど、ヴァン・ヘイレンの「Jump」もやりました(笑)。あと日本のバンドだと聖飢魔Ⅱの曲もやりましたね。多分それが僕の人生初ライブだと思います。

2YOU:その当時からプロのミュージシャンを目指していたのですか?

引田先生:これは学生にもよく言っていることなんですけど、プロを目指してギターを始めた訳ではなくて、まず「楽器が上手くなりたい」っていうのが最初にあって、上手く弾けるようになってくると今度は「この曲もあの曲もやりたい」「ライブがしたい」ってなるんですよ。そうするとお客さんが「凄い!」って褒めてくれて、調子に乗って「またやりたい」ってなるんですけど、その繰り返しの先に行き着くところが多分プロだと思うんですよね。だから「プロを目指す」というより「プロフェッショナルなギターが弾けるようになりたい」というのが僕の中のプロになること、また音楽の仕事をしていくきっかけだったと思います。

2YOU:その中で引田先生が音楽の専門学校に入られたのはどのような経緯があったのですか?

引田先生:僕はNSMの姉妹校のOSM(大阪スクールオブミュージック専門学校)のプロミュージシャン科コースの第1期生なんです。当時は今ほど音楽の専門学校がない時代だったんですけど、OSMに入った一番の理由は2年目に海外留学があったからなんですよ。だから僕は、プロミュージシャン科コースの第1期生だし、留学コースの第1期生なんです(笑)。僕の地元は四国なんですが、勿論四国にそんな学校はなかったので、大阪でも東京でも良かったんですけど、四国から近い大阪にしました。目的はアメリカのロサンゼルスに留学することだったので、留学コースのある学校を選びました。

2YOU:海外のミュージシャンとの交流があるのはそのときの経験からですか?

引田先生:そうですね。OSMにいた頃にアメリカに留学して一度日本に帰ってきて日本でバンドをやっていたんですけど、23歳のときにやっぱりロサンゼルスで音楽をしたいと思って再渡米したんですよ。その後グリーンカードを取得して向こうに住んでいたんですけど、向こうに行くと僕のことを誰も知らないんですよ。だから1年生みたいな状態で。それで僕は自分の「引田寿徳全集」みたいな音源を持って、毎晩クラブやライブにハウスに配りに行ったんです。

2YOU:凄い行動力ですね。

引田先生:そしたらミュージシャンの知り合いが沢山出来たんです。アメリカのミュージシャンってロックが好きな人はロック、ジャズが好きな人はジャズみたいに、当時はひとつのジャンルを極めるタイプが多かったんですけど、僕は割と何でも出来たから、色んなセッションに呼ばれるようになって。そこで友達のミュージシャンが増えたんですけど、その中に僕がずっと長い付き合いをしているKoЯnのレイ・ルジアーとかMR.BIGのビリー・シーンがいて。

2YOU:豪華過ぎますね。

引田先生:彼らもよくクラブに遊びに来ていたからセッションして仲良くなったんですよ。それで一気に広がっていった感じですね。

2YOU:バンドで渡米したのではなく個人で行ったのも大きかったかもしれないですね。

引田先生:まさにその通りで、僕ひとりで行ったから自由な動き方が出来たんですよね。これがバンドで行っていたら、そうはいかなかったと思いますね。

2YOU:ヴァン・ヘイレンのデヴィッド・リー・ロスのワールドツアーにギタリストとして参加されたのもそういった経緯からですか?

引田先生:アメリカで生活する為に仕事を探す中で、OSMにいた頃に学校が提携していたMIというミュージシャンズ・インスティチュートがあって、そこが先生を探しているということでギターを教えることになったんですよ。そこに来ている先生はみんなプロのミュージシャンばかりなんですけど、そこでセッションしたり、レコーディングの仕事を振ってもらっていたんですけど、そこにドラムの先生で来ていたのがKoЯnのレイ・ルジアーで。彼は既にデヴィッド・リー・ロスのバンドに参加していたんだけど、レイから「今度ギターのオーディションがあるからやってみないか」と言われてバンドに参加することになりました。

2YOU:デヴィッド・リー・ロスといえばアメリカのロックアイコンでもあると思いますが一緒にバンドをやってみて如何でしたか?

引田先生:流石は世界を取った人だなって思いました。有名な曲ばかりだし、フェスにも沢山出ましたけど、大体ヘッドライナーでの出演なので前座のバンドが僕が物凄く好きなバンドばかりで(笑)。流石ですね。

2YOU:そういう経験をされてきた引田先生から直接学べる生徒さんはラッキーですよね。学校で生徒さんにはどのようなことを教えているのでしょうか?

引田先生:譜面を読むとか、カッティングの練習をするとかって、別に学校に行かなくても出来ることは出来るじゃないですか。だから僕は現場で学んだことを教えたいと思っていて、例えば教科書では「How are you?」って書いてあるけど実際に使っている言葉は大体「What’s up?」だったりする訳で。そういうことを教えてあげたいと思っています。あと今でこそONE OK ROCKみたいに日本のバンドが世界で活躍していますけど、僕の頃って日本のバンドが世界で活躍することってあまりなくて。だから日本の有名なバンドが影響を受けていたりルーツとしているアメリカのバンドを今の若い学生に教えるのも僕の仕事かなって思っています。若い世代があまり洋楽を聴かなくなったのって英語が分からないのもあるし、あと日本のシンガーで上手い人が増えたからだと思っていて。そういうかっこいいアーティストにもルーツがあることを知って欲しいんですよね。例えばSuperflyとか凄くかっこいいじゃないですか。じゃあ彼女の歌い方は誰の影響なのかって話で。

2YOU:ジャニス・ジョプリンですよね。

引田先生:そう。面白いのは、若い学生が最初からジャニス・ジョプリンを聴いてもあまり分からないんですけど、Superflyを聴いてからジャニス・ジョプリンを聴くと「なるほど!」ってなるんですよ。そうやってルーツを追う面白さも僕は意識して教えています。

2YOU:演奏面や技術的な授業もされるのですよね?

引田先生:僕はギタリストなのでギターテクニックとかは勿論教えているんですけど、「引田ゼミ」というのがありまして、ギターとベースとドラムをスタジオに集めて「今日はファンク」「今日はジャズファンク」「今日はブルース」みたいにテーマを決めてアンサンブルする授業をやっているんですよ。J-POPだと曲のサイズが決まっているじゃないですか。イントロがあって、AメロBメロがあってサビみたいな。でもアメリカのジャズファンクとかファンク系の音楽って自由なので、どう展開していくか、どうやって音楽でコミュニケーションを取っていくかを教える「引田ゼミ」というのをやっていますね。うちの学校には「J-POP」「ロック&メタル」「ソウル」「ミュージカル」「引田ゼミ」という5つの授業があるんですけど、「ロック&メタル」ではメタリカやヴァン・ヘイレンの曲をやったりしています。

2YOU:学生さんと接する中で逆に引田先生が学ぶことってありますか?

引田先生:良い意味でも悪い意味でも今の学生は広く浅く音楽を聴いている人が多い印象があって、色んな視野を持っているのは今の世代特有なのかなって思いますね。僕はやっぱりメタルが好きだったから、例えば金髪にしなきゃいけないとか、ブーツを履かなきゃいけないとか、そういう形から入るのがセオリーだったけど、今は良い意味でサラッとしてるでしょ。

2YOU:確かにあの時代はメタルの人はメタルの人、パンクの人はパンクの人って分かりますもんね。

引田先生:やっぱりこれだけネットが発達して情報が沢山入ってくるから、どんなジャンルも大きく音楽として入ってくるんだと思います。情報が多いから色んなことを知っているし。そういう意味では羨ましいなって思うこともありますね。

2YOU:そのジャンルレス感やミクスチャー感が新しい音楽を生むのだと思いますし。

引田先生:King Gnuとかやっぱりびっくりしましたからね。初めて聴いたときは歌が始まるまでアメリカのバンドだと思いましたから。初めてONE OK ROCKを聴いたときもそうですけど。そういうバンドは日本に増えてきたんじゃないですかね。

2YOU:そういった部分も含めて若い世代のポテンシャルというか、学生さんの可能性を感じることも多いのではないでしょうか?

引田先生:僕らのときはギターはギターのみ、ボーカルならボーカルのみっていう学生が多かったけど、今の子はギターをやりつつ、DTM もやるみたいな、二刀流が出来る子が多いんですよね。ベースも弾くしキーボードも弾くみたいな。そういう子が増えてきたのは凄く面白いし可能性を感じますね。

2YOU:そういう学生さんの可能性を見つけて引き上げるのが学校の役目なのかなと思ったりもするのですが、改めてNSMがどんな学校か聞かせて下さい。

引田先生:NSMは総合校なので、イベントひとつやるにしても、音楽やダンスは勿論、PA、照明、マネージャー、ライブスタッフ、全部が学校の中で完結出来るのが魅力だと思います。あとは僕がロック&メタルを教えているように、ソウルアンサンブルだったらもんた&ブラザーズでドラムを叩いていたマーティー・ブレイシーさんに教えてもらっているんですけど、そういう本物の先生に教えてもらうのが圧倒的に説得力があるんですよね。そういう授業が出来るのもNSMの魅力だと思います。あと先生方も、昔のような「ザ・先生」というタイプじゃなくて、下の名前で読んだり、ミュージシャンの先輩みたいな感じで気軽に接してくれるので、アメリカの学校みたいな空気になってきているのもこの学校の魅力だと思います。あともうひとつ。これはどのコースにも言っているんですけど、楽器が上手くなるコツは自分より上手い人とやることなんです。だからアンサンブルでは学生のセッションに僕がギターで入ったりするんですよ。アメリカの学校でも生徒1人に対して他は全員先生が参加していたり。でもそういうところに入ることによってその学生はグッと伸びるんですよね。それは僕がアメリカで学んだことでもあります。

2YOU:世界でバンド経験をしてきた引田先生や各ジャンルのプロフェッショナルな先生から直接色んなことを教えて頂けるのはやはり大きな魅力ですね。では最後に引田先生、今後のNSMをどういう学校にしていきたいか訊かせて下さい。

引田先生:卒業生が世界的に活躍するバンドに入って今ワールドツアー中だったりするんですけど、そういう子が1人でも多く学校から出てくると嬉しいですね。来年は万博もあるので、ダンスの方も世界の人と一緒に仕事出来る人が増えるような学校にしていきたいです。僕がデヴィッド・リー・ロスのワールドツアーに参加出来たんだから、誰にでも可能性はありますからね。そのきっかけに名古屋スクールオブミュージック&ダンス専門学校がなれたらなと思っています。

▼引田寿徳先生プロフィール
NSM副校長 。姉妹校卒業後に渡米。「DAVID LEE ROTH(VAN HALEN)」のソロ活動でのバンドメンバーとしてワールドツアーに参加。現在は「the Badasses」、「TRI HORN BUFFALO」等で活躍中。

こちらの記事はアーティストのインタビューに特化したメディア「2YOU」で公開された記事を転載したものです。
https://2youmagazine.com/column/nsm241012/